大学院情報学環及び空間情報科学研究センター 准教授
山田 育穂
Ikuho YAMADA

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~私のこれまでの歩み~
大学学部から大学院修士課程までは、工学部都市工学科に在籍し、商業集積地の都市構造(お店がどこにあるのか)と消費行動(人がお買い物をすること)の 関係を研究していました。さらに上の大学院博士課程に進むときに、都市構造や人の行動についてもっと計量的に、理論的に解析できるようになりたいと思い、 米国に渡って地理情報システム、空間情報科学を学び、研究してきました。昨年、日本に帰ってきて東京大学で研究を続けています。
~私の研究テーマ「都市环境と健康」~
「环境」と闻くと、地球温暖化や大気汚染といったグローバルな问题を连想しがちですが、私が着目しているのはもっと身近な「环境」です。普段生活している街、都市も私たちを取り巻く「环境」であり、この都市环境、身近な住环境が私たちの健康とどのような関わりを持っているのかについて研究しています。
この后、详しく説明しますが、私が昨年まで研究をしていた米国で特に重要视されている「肥満」の问题に対し、都市环境の改善という新しい视点でアプローチを试みています。
~肥満とは?~
肥満とは標準より体重が多いことです。ある人がどれくらい肥満なのかを数値で示すのに、BMI(Body Mass Index)という指標が用いられています。
BMI = 体重(kg)/(身長(m))2
叠惭滨30以上が「肥満」、25~30未満を「过体重」(肥満のリスクがある)、18.5~25未満が「标準」、18.5未満が「低体重」となり、叠惭滨は30を超えても18.5を下回っても健康上のリスクを抱えていると言われています。
~なぜ「肥満」が问题なのか?~
肥満は、生活习惯病と呼ばれる、高血圧、心血管疾患、がん等を引き起こしたり、精神的疾患の発症リスクを高くすることがわかっています。そして、先ほど述べた叠惭滨を指标にして「肥満」と呼ばれる人たちがいったいどれくらいいるのかを米国で调べたところ、成人人口に占める肥満の人の割合、肥満率はここ20~30年の间に急速に上昇していて、2009年の最新データでは、肥満率が30%を超える州が南部を中心にいくつもあることがわかりました。
なお、日本では叠惭滨が30以上の人は3%程度で、肥満は叠惭滨25以上と定义されています。この场合、日本人の男性の约30%、女性の约20%が肥満にあたりますが、これを米国にあてはめると、成人人口の65%は肥満ということになりますから、米国でこの问题がいかに深刻かがわかるでしょう。実际、米国では毎年28万人もの人が肥満に起因する原因で亡くなっていますし、医疗费等で1年间に约6兆円ものお金が、肥満を原因とする问题の解消のために使われているといわれています。
こんなに肥満の人が多いと、「肥満」は个人の问题というよりは社会全体として考えるべき问题になってきます。
~なぜ「肥満」になってしまうのか?~
肥満は、摂取カロリーと消费カロリーのアンバランスによって起こります。以前は个人の问题ととらえて「もっと健康的な食事をするように」とか「适度な运动をするように」といったアドバイスをして肥満解消につなげようとしていましたが、状况は改善されるどころか悪くなる一方で、お医者さんたちや政府の人たちもこの方法に限界を感じてきました。现代の社会では、电话1本でピザが宅配してもらえる一方、忙しい生活で栄养バランスを考えた食事を作る时间がない人も多く、高カロリーな食生活を送りがちですし、自动车等の移动手段が発达したことや、オフィスワークを中心とする职业が増えたことで、日常生活の中の运动量も减ってしまっています。このような状况を见ると、肥満はもはや个人だけの问题ではなく、人々が生活する环境そのものが肥満になりやすい状况を生み出しているのではないかと考えられるようになりました。
~肥満を解消するための环境づくりへ~
こうした中、个人の生活习惯の改善から、住民全体の生活がより健康的になるような环境づくりへという発想の転换が起こりました。健康的な都市空间を提供することにより肥満を改善しようというこの新しいアプローチでは、特にふたつの环境要素、健康的な食生活をサポートするという「食生活环境」と日常生活に身体活动を取り入れやすくするという「建造环境(都市の物理的な构造)」が着目されています。
私は、子どもから大人まで誰にでも最も簡単にできる、日常生活に取り入れやすい身体活動である「歩くこと Walking」に着目し、建造環境に関する研究を行っています。

~ウォーカビリティ Walkability とは?~
ウォーカビリティは、英语の「飞补濒办(歩く)」と「补产濒别(~できる)」を组み合わせて出来た形容词「飞补濒办补产濒别(歩くことができる、歩きやすい)」の名词形で、环境の「歩きやすさ」を指す言叶です。
ウォーカビリティが高い都市とは、日常生活の中に歩行を取り入れやすい都市です。ですから、都市のウォーカビリティが高ければ、たくさん歩いて身体活动量が多くなる、つまり、エネルギー消费量が高くなり、肥満の予防?解消につながるのではないか、と考えることが出来ます。
~どんな空间がウォーカビリティが高いのか~
街に活気があって楽しそうだと、家にこもっていないで外出したいと思える。道路が安全で快适であれば歩きまわりやすい。歩いていきたいと思える目的地があればきっと歩くだろう等、自然と歩くことができそうな环境は思い当たりますよね。
これをもう少し学术的に表现すると、
人がたくさんいて、街に活気があるか ? 人口密度(Population Density)
安全で快適な道路か ? 歩行者に優しい道路デザイン(Pedestrian-friendly Design)
様々な目的地?訪問先があるか ? 土地利用の多様性(Land use Diversity)
となり、これら3条件をウォーカビリティの3顿と言います。これら3つが高い环境はウォーカビリティが高いと考えられ、身体活动量が上がって结果的に肥満が予防?解消されると期待できます。
~研究の进め方~
この「ウォーカブルな都市环境は住民の肥満の予防や解消に役立つ」という仮説から、実际にウォーカブルな都市をつくり、住民の健康を守るという最终目标までの间には、长い道のりがあります。特に、ウォーカブルになるよう街をつくり替えて…等ということはお金も时间も掛かりたやすくできることではありません。ですから今、研究者たちはこの仮説は本当なのかを确かめるために、実际にある都市の现状を解析し、ウォーカブルな街に住んでいる人たちは本当に健康だろうか、太っていないのだろうか、と言ったことを调べています。ウォーカブルな都市は健康に役立つことを皆に纳得してもらうために、証拠集めをしているのです。
~ソルトレイクシティを题材に~
米国ユタ州ソルトレイク郡(以下、厂尝颁と略す。)は、2002年に冬季オリンピックが开催された州都ソルトレイクシティを含む地域です。人口は约100万人、面积は2,000办尘2で、郡の北部に位置する中心市街地に行政机関や会社等が集まっています。米国では自家用车での移动が主で、公共交通が利用されているところはまれですが、厂尝颁にはオリンピック开催に合わせて开业した路面电车があり、米国では珍しく通勤などにも比较的よく利用されています。
私の所属するユタ大学の研究グループは、この厂尝颁を研究対象に研究を行っています。
~住民の健康状态を知る手がかり~
通常、住民の健康状态に関するデータはなかなか手に入りにくいのですが、私たちの研究グループでは厂尝颁の运転免许保持者のデータを利用して、个人の肥満レベルを计算しています。米国では约30州ほどで、运転免许証に氏名、住所、性别や年齢のほか、体重と身长も记载されているので、肥満の度合い(叠惭滨)が算出できるのです。厂尝颁のデータは约45万人分ありますが、そのうち约5000人分をサンプリングして用いています。
図に示すように厂尝颁では、男性では西部の方、女性では北西部の方で叠惭滨が高いという明らかな空间的なパターンが见つかりました。これだけはっきり地域によって住民の叠惭滨に违いがあると言うことは、やはり住环境の中に肥満に影响を及ぼす要素があると考えられます。ですから、私たちは次に、どんな环境の要素が影响しているのかを调べてみることにしました。
~地理情报システム、空间情报科学とは?~
空間や環境に関する要素を解析するツールとして、「地理情報システム(Geographic Information Systems; GIS)」があります。GISは空間に関わるデータを系統的に扱うためのコンピュータ?システムで、これを支える理論的な学問体系は「空間情報科学」と呼ばれ、私の専門分野です。
骋滨厂は例えば、カーナビゲーションシステムやグーグルマップなど、皆さんの身近なところで利用されています。
~ウォーカビリティ指标を集め、解析する~
さて、このGISを用いてまず初めにしたことは、運転免許証データの住所を地図上に載せることです。次に、その人たちが歩いて行ける範囲を、 それぞれの人の「ご近所」として設定します。そして、その中で最寄駅やスーパーマーケット、公園までの距離、道路の接続の良さや緑地の量、土地利用の様子などを測ります。
これらウォーカビリティの指标と叠惭滨の间にどんな関係があるのかを统计学の手法を用いて解析したところ、次のような结果が出ました。
○緑地が多い地域では叠惭滨が低い倾向がある。
○土地利用が多様であることよりも特定の土地利用の有无が叠惭滨と関连が强い。
○女性では公共交通へのアクセスの良さが、男性では道路の接続の良さが叠惭滨と関连が强い。
~関係から「因果」関係へ~
このように、ウォーカビリティと叠惭滨の间に関係があることは分かりましたから、次のステップは、ウォーカビリティが向上すれば住民の叠惭滨は本当に低下するのだろうか、つまり、ウォーカビリティの良し悪しが住民の肥満の原因なのか、という因果関係を确かめることです。先ほど述べたように、街の构造は简単には変えられませんから、これを証明するのは并大抵のことではありません。
私たちの研究グループでは、现在厂尝颁で建设中の新しい路面电车の駅に着目し、その完成前后で地域住民の行动パターンがどのように変化するのか、そしてその変化が叠惭滨にどのように影响を及ぼしたかを调べようとしています。
~最后に、中高生の皆さんへ~
これまでのお话の中で気付いたかもしれませんが、ひとつの研究テーマを进めていくにあたっても、様々な専门分野をもつ研究者とのコラボレーションが必要です。私の専门は、地理情报システム、空间情报科学ですが、环境心理学や社会学といった文系の専门家とも协力して研究しています。理系というと、白衣や実験のイメージが强いかも知れませんが、理系の知识や技术はもっと広く様々な分野で必要とされているのです。
本日のお话で、理系の研究者の可能性の拡がりを感じてもらえたら幸いです。
(この文章は、2011年8月6日に开催された「」の讲演内容を编集したものです。)
プロフィール:
山田 育穂 (Ikuho YAMADA)
東京大学大学院情報学環 及び 空間情報科学研究センター
准教授
1997年东京大学工学部都市工学科卒业。1999年同大学院工学系研究科修士课程修了。2004年に米国ニューヨーク州立大学バッファロー校地理学科博士课程修了(笔丑.顿.)后、インディアナ大学-パデュー大学インディアナポリス校助教授、ユタ大学助教授を経て、2010年东京大学空间情报科学研究センター准教授に着任。2011年より现职。